みんなの診療所は7月1日で無事に1歳になりました。
1歳の誕生日の今日は、この1年を踏まえてみんなの診療所のこれまでとこれからを綴ってみたいと思います。
診療所のこれから
一言で言うとそれは未知数です。
未知数と答えた理由は、診療所に求められることがあり、それが私の医療に対する考えに反さない限りできるだけ応じたい。と思っているからです。
この1年でもみんなの診療所は状況を見ながらその姿を変えて来ました。本当に幅広い症状の診療ニーズがあることに正直驚き続けた1年でした。特に小児科、皮膚科、整形外科、泌尿器科などは私の想定を越える診療ニーズで、開院当初は戸惑いを隠しきれませんでした。

ですが、それでも、一度は診療所で診察して欲しい。対応が困難なら然るべき医療機関を紹介してほしいと言う方が多いという事実を痛感しました。中核病院で働いていた時は、紹介状なしで飛び込みでそこに直接受診される患者さんを多く目の当たりにしていたので、何かあればすぐ専門医という考えが広がりつつあると感じていました。しかし一歩、大病院を飛び出し地域の最前線に出れば、いきなり大きな病院には行きにくい。どこの病院に行くのが良いのかわからない。そもそも受診した方が良いかどうかもわからないし、どの診療科に受診して良いかもわからないという方が沢山いることに気が付きました。
そのニーズにまずは答えるべく『ひとまず一回は診る』という診療スタンスをこの一年貫きました。これは私が研修医の時から全ての病院で叩き込まれた、『断らない』医療を実践するだけでしたので、新しいことではありませんでした。大きな救急外来や、地域で唯一の医療機関ではなく、小さな開業医にもそのようなニーズがあるということを確信したと言う点においてとても価値ある収穫でした。そして、この診療スタイルに付いてきてくれるスタッフにもとても感謝しています。
診療所の特徴の一つに掲げた『コンビニのような診療所』は達成できたのではないかと思います。地域の方々と各専門診療科の開業の先生方、そして中核医療機関をつなぐ『Hub』として機能すべく今後もより一層、診療の質向上を目指したいと思います。

その反面、私たちの診療所では採血も外注、CTやMRIはない。というなかでの診療ですので、ご紹介となる場面も多いのも事実です。その点においてはご紹介を受けていただく医療機関の先生方にいつもとても助けれられて診療をさせていただいています。どの医療機関の先生方もいつも快く紹介を引き受けて下さります。本当にありがとうございます。
その際、私はご紹介するにあたり気をつけていることがあります。それは、出来るだけ丁寧に紹介状を書くという事です。
*自分が疑っている病名を出来るだけ具体的に書く。
*その病名にたどり着いた病歴や身体所見や検査所見を陰性所見や除外した疾患も含めて出来るだけ詳しく書く。
*当日や時間外での紹介となる場合はなぜ翌日や週明けの平時の外来まで待てないと考えたかを書く。
*入院で治療のお願いの時は、入院が必要だと考えた根拠を書く
ということを心がけています。
患者さん、診療所、紹介先医療機関を繋ぐものはこの紹介状1通だからです。患者さんと一緒に私達の思いがその紹介状に出来るだけ載るように心がけて紹介状を書かせていただいています。そうすることで少し『Hub』としての機能が向上するように感じているからです。そのため、緊急でご紹介となる方がいると次の診察の方は少しお待たせする場面も度々ありますが、どうかご容赦頂けましたら幸いです。
また、『受診した方が良いか?』という相談が多いことも、新たな発見でした。
これは、相談してくださった方にとってはそれ以上の意味はないのだと思いますが、電話を受ける医療機関側からすると、無診察、無検査、無治療で大丈夫な状態か?と問われていることになります。つまり、ある程度の問診が必要です。場合によってはスマホで写真を送ってもらうこともあります。電話で相談を受けて受診不要と判断する事は、問診をして、身体診察や検査、治療は不要であると判断すると言う事でもあります。もちろん、お話を聞いた上で受診をしていただくことも沢山ありますが、どちらにせよ、その時点で医学的な判断をしていることになります。
これはこのコロナ禍でさらに緩和されたオンライン診療や電話再診との境界がとても曖昧だと感じています。かたや有料、かたや無料では不公平感が出てしまそうな気がしています。そのため、『みんなの診療所』では当面オンライン診療、電話再診は行いません。電話での受診要否の相談を気軽にしていただきたいと思っているからです。そのような役割も地域の診療所の大切な役割だと思っています。これからも体調のことで不安なことがあればいつでも気軽にご連絡ください。

そしてこの1年で4500人を越える皆様に御来院いただきました。龍郷町の人口6000人を考えるととてもすごい数だと実感しています。これは私が勝手に感じている『第二第三の主治医』的な存在であることの表れなのではと感じます。普段はかかりつけが別にあるけど、かかりつけの先生の専門外だから当院に来られる、土日に体調が悪くなったから当院に来られる、というような形でご利用いただく方が多いことも、土日祝日、早朝、夜20時までの診療を行なっている当院の特徴です。そのような受診でも大歓迎です。結果として地域の方々が安心して奄美で医療を受けることができる体制の一部をみんなの診療所が果たせるのであればそれで良いのです。奄美の限られた医療資源の中でそれぞれの医療機関が最も良いパフォーマンスを発揮することができるための潤滑油となれれば、それこそが『みんなの診療所』が目指すところです。
2年目に突入したみんなの診療所ですが、これからも、地域に埋もれた医療ニーズに出来るだけ柔軟に対応していきます。診療所のみでなく、役場や関係各機関、多くの医療機関の方々のサポートを頂きながら、どうしたらこの方に最適な環境を提供できるか?どうしたら地域において診療所の存在意義を高めていけるのか?常に自問自答しながら、現状に満足することなく成長していきたいと思います。診療所をご利用いただく皆様、スタッフ、家族のみんな、関係各機関/医療機関の方々、これからも『みんなの診療所』を支えていただきますようよろしくお願い致します。