診療所をご利用の皆様。休診のこの間にも原は自宅で出来ることを淡々とこなしています。
その一つとして今回のブログを書きました。
2023年1月からは短期間ですが奄美看護福祉専門学校の看護学生さんを。4月から県立大島病院をはじめとした研修医の地域研修を、その数年後には総合診療医や家庭医を目指す専門医としての研修をする医師をみんなの診療所で受け入れる予定です。
これは、奄美で働く医師は誰が育てるのか?という疑問に診療所として一つの答えを出した結果。ということでもあります。
その質問についてはぜひ奄美大島で生活する皆さん一人一人にも考えていただきたい課題でもあります。
その前に、日本中多くの病院でそうですが、夜間の救急外来などにいくと若い医師が担当することが多いという印象があるのではないかと思います。それはある意味事実です。専門性にとらわれず受診した人を全員診察するという機会が若い医師にとって成長のために必要不可欠だからです。専門診療科が診療してしない夜間や休日での経験が若い医師には必要なのです。だからと言って、受診していただいた方たちへの診療の質に不安があるかというとそうではありません。
例えば、私が県立大島病院の救命救急センターで当直医として当直しながら研修医の先生の指導に当たっていた場合をご紹介します。
救急搬入については重症度や緊急度が高い方が多いので基本的にはマンツーマンで目を離さずに研修医の先生と診察、治療にあたります。歩いて受診される患者さんについては、受付や簡単な問診を確認すると、診察室に患者さんをお呼びする前にまず一回研修医の先生とこれから診察する患者さんについて議論をします。この簡単な問診からまず疑われる疾患は何か?その次に疑わしいものは?念の為第3候補くらいまで病名を思い描いておこう。それとは別に、可能性は高くないかもしれないけど、もし見逃したら命に関わるような病気はなんだろう?それについては今回の問診から強く疑われるわけではないけどしっかり可能性を下げてからこの病院を離れてもらわないといけないね。というような会話をしてから患者さんを診察室にお呼びして、問診診察が始まります。
より詳細に問診する中で、お呼びする前に想定した疾患の他に他に疑わないといけない病気があるか?思い描いた疑わしい病気の順番に変化はないか?などに注意を払いながら問診を深めていきます。ある程度問診で疑わしい病気、疑わしくはないけど見逃したら命に関わるのでしっかり否定しておきたい病気などを絞った段階で、それをより確かなものとするために、診察を開始します。診察で、この所見があるから、やはりこの病気が疑わしい。診察でこの所見がなかったから、見逃しがら命に関わるこの病気の可能性は極めて低いだろう。という具合です。
問診と診察までが終わると、一旦患者さんは待合室で待ってもらいます。問診と診察で十分診断が可能か?危険な疾患は否定できたか?診断がまだ不十分だとしたら、追加の検査が必要か?それはどのような検査か?診断のために必要なのか、ある病気の否定のために必要なのか?その検査は患者さんへの身体的な負担はどれくらいあるか?(被曝や痛み)、患者さんへの経済的な負担はどれくらいか?(例えばレントゲン→CT→MRIといった順番で費用は高くなる)、その身体的/経済的負担を差し引いても必要な検査か?、その検査で期待される所見は?(とりあえずやってみるという検査は極力せず、検査をするからには予め結果を予測してから検査をする。結果がAならこうする、Bならこうする、どちらでもなければ、こうするとその後の作戦も決めてから検査をする。そうしないと期待していない結果が出た時に検査結果に振り回れることになる。)という議論をしてその先の検査の要否を決定します。
検査結果が出たら、期待した結果の中のどの結果だったか?それにより十分診断が可能か?危険な疾患の否定ができたか?治療開始ができるか?専門診療科への紹介が必要か?入院が必要か?などを検討します。治療に当たっても、どの方法を選択するか?その根拠は?(より安く、より効果が確実な治療法があればそれを選ぶべきで、より高価なものや、より効果が劣るものは避けた方が良い。数ある治療法の中からどれを選択するかはきちんと根拠を持って患者さんにおすすめできるのが理想的)治療期間はどれくらい必要?、治療の途中で受診が必要?などの議論をした上で治療方針を決めます。
若い医師に全てを委ねて、受診される方に不利益が生じるようなことは決してしないようにしていました。そのため、原が県病院で勤めていた7年間は一度も当直室を使用したことはなく、患者さんが誰もおらず落ち着いている時も必ず救急外来から離れることなく、仮眠をとる時も診察室や、手術室、レントゲン室のベッドやソファーで寝ていました。
県立病院を飛び出し、地域に出て、私は感じました。県病院や徳洲会には若い医師がいる。そこから一歩外に出たらどうでしょう。原は43歳ですが、これでも地域では最も若い方です。これから10年先、20年先、奄美大島の医療は誰が担うのか?と考えた時、大きな病院の外に若い医師がいないことはとても危機的なことだと感じました。まずは地域での医療を経験してもらい、知ってもらい、みんなの診療所で研修をしてくれた若い医師の中から、地域医療に関心を持ってくれる医師が現れれば未来の奄美の医療にも少し光が差してくるかもしれないと願いを抱いています。
本当はもっと大きな仕組みで医師確保が必要なのだとも思いますし、ことあるごとに、方々に提案していますが、具体的に動いてくれそうなところはないので、まずは自分の手の届く範囲で、未来への種を蒔くことにしました。
他力本願はだめ。まずは自分で出来ることは自分でする。これが2022年のコロナの波を1年かいくぐった私の得た教訓です。
これは奄美大島に住む皆様にもご理解を頂かないといけない部分で昨年も少しブログで触れましたが
すでに完成された医師だけを島外から送り込んでもらうことをこれからも期待し続けることはどうやら難しい時代になってきた。もししくはこれからなっていくと予想されます。そのため、奄美の医療の未来を支えてくれる人材は奄美大島として育てていかなければならないと感じています。そのほんの一部だけでもみんなの診療所がお役に立てたらと思い、研修医や専攻医の受け入れを開始することとしました。どうか、診療所のご利用の皆様にもその点をご理解いただき、研修の医師や看護学生さんを暖かく迎え入れてくれたらと思っています。
また、私たちが、問診→診察→検査と大きくは3つのステップを経て、その都度、病名やその確率を想定しながら、徐々に診断、もしくは除外に向かっていくという過程を診療所をご利用の方にも知っていただきたいと思いましたので、本編の途中では私が県病院にいた時のことを書きましたが、これを診療所の外来でも再現できるよう、下記に紹介するような診察シートをこの自宅療養中に作成しました。県立大島病院の臨床研修センター長森田先生にもお目通しいただき研修時の使用をご了承いただきました。診察の質はしっかり担保した上で研修の医師を受けいれるつもりであることをご理解いだだき、地域として患者さんとも一体となって医師を育てていける文化をみんなの診療所に根付かせていければと思っています。