子どもたちでいきなり処置の練習をするのは怖かったので、まずは小さなお皿に米粒を乗せ、処置用の器具で米をつまみ、隣の皿に移すという作業を行いました。これができるようになったら、処置用の耳鏡を通して米をつまむ練習です。ここで、新たなことに気がつきました。
耳鏡を通して、その奥の米粒にピントを合わせると、米をつまむピンセットを拡大鏡の視野に入れた時にピンセットの柄の部分が二重に見えるのです。米をつまむ距離、つまりピンセットの先端部分はきちんと焦点があってるのですが、それより手前側が二重に見えます。これは視野の狭い耳鏡を通して処置の練習をするまでは気づかなかった症状でした。

拡大鏡を購入するにあたり、大学の同期の心臓血管外科医に相談していたのもあり、再度彼にその症状について相談しました。そうしましたところ、拡大鏡を買い替えた際にしばらく同じような症状を自覚したとのアドバイスをもらったので、処置の練習を続けていれば徐々に脳の側が慣れてきてピントが合ってくるに違いないと信じ、そのまま処置の練習を続けることにしました。すると、まだ完全というわけではないのですが、ピンセットの柄の部分もあまり二重に見えなくなり、処置の練習もしやすくなりました。人間の脳の適応力は本当にすごいものです。そして、彼から『拡大鏡をつけて食事をするように』ともアドバイスをもらいましたので、素直な私は早速実践することにしました。この練習のおかげでだいぶ、拡大鏡をつけている状態での距離感や遠近感の感覚がつかめてきました。

こうして、徐々に器具に慣れ、そして私の脳が慣れてきて、見栄を張って購入した、耳鼻科用処置のための道具や拡大鏡が万が一の時は活用できそうな気がしてきました。
こうして、書いている事に目を通して頂いた方たちは、こんな状態で実際に患者さんがきたら、患者さんに対して処置を試みるのか?それはあまりに無謀ではないか?危険ではないか?と感じる方もいるのではないかと思います。それは全く正解です。私も思い切って道具を購入したものの、これらの道具たちを活用する機会がないことが奄美に住む皆さんにとって最も幸せなことだと思います。
後ほど、皆様に奄美大島の当面の耳鼻咽喉科外来の開設状況についてはご案内いたしますが、しばらくは月曜日と水曜日は平日ですが耳鼻咽喉科の外来がない日となります。日曜日も含めると1週間のうち3日間は耳鼻咽喉科の外来はどこもお休みです。また外来を開設している医療機関のうち、予約なしで受診が可能な施設は1箇所のみです。それでも、急患は発生します。その方たちをどうするべきなのか?という課題について、今、私ができることが、『とても不十分だとしても、必要があれば患者さんを受け入れる事。そのために、自分に出来ることはできる限り行うこと』でした。
ですから、もし、耳鼻咽喉科の外来が無い日に診察が必要になった方がいたら、一度は診察し、私でもよければ処置を試み、それでもうまくいかなければ高次医療機関へとご紹介するしかありません。少なくともこの今の状況を改善するためにほんの少しでもアクションを起こす事が大切だと考えた結果です。
実は、昨年は、島内唯一の産婦人科クリニックが閉院したこともあり、同じような課題に直面しました。最終的に島内の常勤産婦人科医師のおられる県立大島病院、名瀬徳洲会病院などには仕事や生活リズムの関係上どうしても通院できないという方を3名、当院でお引き受けさせて頂きました。その時は県立大島病院、名瀬徳洲会病院の先生方に相談し、本当にお引き受けして良いのか?もしお引き受けするとしたら絶対に気をつけておかなければならないことは何か?どのタイミングで産婦人科専門医の受診を勧めるべきかについてはご相談して、方針を決めた上で、お引き受けさせて頂くこととしました。
おそらく、今後もこのような出来事は徐々に増えていくことが予想されます。それぞれの組織できっとそれぞれこのような場面に自分たちができることを精一杯行っているのだと思います。ですから、私も私にできることをしたいと思っています。そして、良い悪いという問題ではなく、これが今の奄美大島の医療の現場だということを地域の皆様にも感じていただくことが必要だと考えているため、このようにブログで発信をすることしました。
次回は、当面の間の奄美大島内の耳鼻咽喉科外来の開設状況、予約の要否などについてをご案内いたします。