2020年7月1日にみんなの診療所がオープンして3年が経ちました。
自分が描いていたよりも、現実は遥かに複雑で、やりたいと思っていたことの中で全然できていないものも沢山あり、自分の力のなさを痛感する日々ですが、それでもこの3年間を走り抜けてきたことは、少しだけ自分を褒めてあげても良いのかなとも思っています。
そんな3年間を少し振り返ってみたいと思います。
1)家族への感謝
オープン時期はコロナの時期でもあり、慎重な行動が求められていました。また、私が自分で決めた長い診療時間、土日祝日診療の影響もあり、家族にはいろいろ負担や協力をしてもらう形になりました。妻には診療所の裏方として、ガッツリと診療所運営に関わってもらうことになりました。そして、私が診療所にいる間の家を今まで以上に支えてくれました。最近は子供たちが島外に進学したこともあり、奄美、東京、岡山を行ったり来たりする目まぐるしい日々です。下二人の子供達もコロナと私の診療スタイルの影響でこの3年間は島外に出ることもなく、土日に一緒に遊ぶ時間も少なく、父親としてきちんと役割を果たせているのかと申し訳なく思うことも少なくありません。それでも、短い家族時間を濃厚に過ごしてくれて、私に夫や父であることを感じさせてくれる心優しい、懐深い妻や子供達にいつも支えられて、なんとかこの3年間を過ごしてきました。こんな私がなんとかこの怒涛の3年間を切り抜けてこれたのは何と言っても、家族の理解、サポート、協力なくしてあり得ませんでした。香澄、楓、樹、庵、碧には本当に感謝しています。有り難う。

2)スタッフへの感謝
『みんなの診療所』がみんなの診療所であるためには、このメンバーでなければ成し得なかったと心の底から思います。1日に最大で125人もの患者さんが受診し、60人もの発熱対応をして、重症患者さんを高次医療機関へと紹介し、院内処方でお薬をお渡しし、健康診断や予防接種も行い、時には縫合や傷の処置なども行う。医師一人でこれを実現するにはそれ以外のスタッフの驚異的な働きがなければ到底不可能です。誰か一人が欠けても今のみんなの診療所にはならなかったと思えるほど、スタッフ一人一人がそれぞれ重要な役割を担っています。
どうしたら、患者さんを断らずに診療し続けることができるか。どうしたらより快適な診療を行うことができるか。どうしたらスタッフとしても持続可能な働き方ができるか。常に考え行動する習慣がスタッフにはしっかり身についています。
そして、自分に少しゆとりがあるときは、手が足りていない業務がないかと常に自分にできることを探し、わからないことがあれば自ら調べて勉強し、それでも分からなければそのままにせずにきちんと質問する。
また、スタッフ間でも納得して自分の中に落とし込めるまで話し合い、時に意見が異なる案件が出たら膝を突き合わせて時間をかけ、腑に落ちないまま前に進むことは極力しない。そうして動き出したものも常に改善点を見つけてブラッシュアップしていく。
本当に診療所スタッフの診療所を思う気持ち、患者さんを思う気持ち、自分たちの仕事に誇りを持つということ、向上心に毎日、関心、感謝、尊敬の気持ちです。
みんなの診療所は原のみではなく、スタッフ一人一人の個性が集まって力を合わせてこそ『みんなの診療所』としての本領を発揮します。
こんな信頼できるスタッフと仕事ができる私はとても恵まれています。これからもこの仲間たちを大切にしていきたいと思っています。いつも本当に有り難うございます。これからも診療所の大切な一員として力を貸してください。
3)ご来院して頂ける地域の皆様への感謝
2022年の8月にはコロナ流行に伴い最大6時間待ちという、悲惨な状況になったこともありました。そんな中でも大きな不満を漏らすことなく、診療を受けていただいた皆様には本当に申し訳ない気持ちでした。その後も、自分が思い描いていたよりずっと多くの方にご来院頂き、私が思っていたよりずっと重症度の高い方が受診され自分でも正直驚きの毎日です。
血液検査は全部検査センターでの外注検査、CTやMRIはもちろんない。胃カメラや大腸カメラもない小さな診療所に時には生命に関わるような心疾患や外傷、脳血管疾患の方もいらっしゃいます。いわゆる地域の町医者である原の元に、本当に様々な症状を持った方がいらっしゃることにもとても驚いているのと同時に、それを承知の上で受診に来てくださる皆様には、診療所を選んでご来院くださることにとても感謝しています。自分の持てる能力の限り全力を尽くす気持ちでおります。
その中でも、医師一人でできることには限界があります。もちろん、そのほかの職種のスタッフについても同様です。原の中にはもっともっと奄美の医療を良くしていくために出来そうなこと、やりたいことがいっぱいあります。だからこそ、次の2年、3年は人を集め、想いを伝え、仲間を同志を増やしていかなければならないと感じています。それが最終的には奄美に、そして奄美に住む皆さんにとって私がお役に立てることのような気がしています。

4)みんなの診療所は『みんなの診療所』になれているのか??
みんなの診療所という名前には
医療とは、生活の一部として当たり前にあるもの、地域の方々一人一人にその主体があるものという意味が込められています。
そのため、受診のしやすや、受診された方全てを断らずに一度は受け入れること、できるだけ検査や治療の根拠を説明した上で納得して医療を受けて頂くこと。などにはこだわりながら診療を行なってきました。また、その反面、先に述べたように診療所の限界に近い、もしくは限界を上回るような受診状況となる場面もあるため、有限の医療資源として、診療所として対応できることの限界や、保険証を使用した診療のルール(好きなだけ検査を受けたり、薬をもらったり、処置を受けたりできるわけではなく、医学的な必要性が乏しい場合はご希望に添えない場合や保険証が使用できない場合もあることなどをご案内しなければならない場面もあります)などをお伝えし、必ずしもご希望に沿った診療が行えない場面もあります。それも含めて奄美大島の医療の現実を皆様に感じて頂く、知って頂くことも『みんなの診療所』の使命であるとも感じています。
そうしますと、いつも皆まさの望まれること、安心感が感じられることばかりを行う、お伝えするということにはいかない場面もあり、少し複雑な心境になることも実は多く、どうすることが『みんなの診療所』らしいのかということを自問自答する日々です。
この命題はきっといつまでも、私の中でも正解の出ないものだとも思っていますが、それを考えなくなったら、奄美の医療を良くしたいと思う気持ちに妥協が生まれた証拠であるとも思いますので、これからも自分の想いを実現させつつ、それと同時にいつも悩みつつ、それでも少しでも前に進めるように診療所やスタッフや家族と共に成長していきたいと思います。
これから4年目に入るみんなの診療所をどうか引き続き、よろしくお願いいたします。