医療機関は利用者にとって必ずしも利便性が良いとは言えない場合も多いと私は感じています。
月に1回とはいえ、平日日中に受診するのは働いている方、家でお子さんのお世話をしている方やご家族の介護をされている方などにとっては難しいことも多いのではないかと思います。そこで、『みんなの診療所』では様々なライフスタイルの人が通いやすいように、利便性の向上の工夫をしました。いかに順を追ってご説明いたします。
1)診療時間、診療日の工夫
一週間のうち、木曜日はお休みを頂きます。お休みの日に私が何をするかは追ってまたご紹介したいと思います。
そのほかの、曜日は土日、祝日問わず診療致します。診療時間は以下の通りです。
月、火、水、金 6時30分から20時まで お昼休みなし
土、日、祝日 9時 から17時まで お昼休みなし
木曜日 休診
となります。
朝早く診療を開始することで、出勤前、通学前に受診する事が可能になります。
20時までの診療とすることで、仕事帰り、部活のあとでも受診が可能です。
ご家族の帰宅を待ってからしか通院できない事情がある方の定期受診の選択肢も広がります。
20時までに来院していただければ20時以降になっても診察致します。
お昼休みを設けませんので、お昼休みの合間に受診をして頂くことも可能です。
診療日数、診療時間を長くすることで、患者さんの集中を防ぎ、結果的に待ち時間の短縮にもつながりますし、私の苦手な混雑した待合室を避ける事ができ快適に待ち時間を過ごしていただくことにも繋がります。これは完全に副産物ですが、この密を避けるように叫ばれる日々の中で、利用者の方達のソーシャルディスタンスを保つことにもつながる結果となりました。

2)院内処方の採用
診療時間が長く、年末年始や連休中も診療の予定であるため、院外薬局の営業時間に当院の診療が左右されないように院内処方を採用しました。また、利用者の方の来院から帰宅までの動線を考える中でワンストップで用事が済むようにしたい、できるだけ利用者の方の金銭的な負担を軽くしたい。という思いからも院内処方を選択することとなりました。
3)立地の工夫
奄美は車社会です。皆様の通院を考える上で駐車場に余裕があるという点は非常に重要視しました。そのため、建物に対し十分広い駐車スペースを確保できる敷地を探しました。
また、できるだけ多くの人に医療を提供できる可能性がある場所という点も重要視しました。『みんなの診療所』という診療所名にするにあたり『奄美みんなの診療所』と『奄美』を前につけるという案も当初検討されました。が、『奄美』と地域を限定することと『みんな』という言葉の間に矛盾が生じると感じたため、『奄美』の文字は取り去りました。
これには、今後、世界自然遺産になるかもしれない奄美が、奄美に住む人だけに愛される奄美ではなく、世界中の人から愛される奄美であってほしいという思いを込めてのことです。
そのような中で、名瀬の市街地からもアクセス可能で、奄美空港から奄美にいらっしゃる方にとっても利便性が良い診療所でありたいという思いがありました。
そのような思いで敷地探しを入念に行ったため、敷地探しは実に約2年を要しました。結果的に、十分に広く、私が入手可能な金額に収まり、様々な背景の人にとってアクセスしやすい場所である土地に出会いました。

そして、さらに利便性上の条件のみでなく、診療所から見える景色にもこだわって土地探しをしました。条件は奄美の自然の美しさを堪能できる場所。それは私にとって『山』もしくは『海』が美しい場所を意味していました。当初は海の見える場所も候補に土地探しを始めましたが、奄美は雨が多い土地です。雨の日が楽しくなるような診療所でありたいと思った時、雨の日の奄美をより一層美しく見せてくれるのは森の木々でした。水滴を蓄えた葉から滴がこぼれ落ちるその様や、普段より緑が深くなったように感じる山の姿、雨上がりの山から呼吸をしているかのように立ち込めるモヤの様子などは、雨の日の外出も悪くないなと思わせてくれるのに十分な美しさがあります。普段、当たり前だと思っている、奄美の雄大な自然を診療所という普段は殺風景で無機的な空間から目の当たりにすることで、奄美の素晴らしさに改めて気がついて頂きたいという思いがありました。そして、そこに生きるみなさんもそれ以上に尊い存在であると知ってほしいという気持ちがありました。
その全てを満たす運命的な場所と出会えたことは、そこにできる診療所の姿や、そこに集う職員や利用者の方々にもきっと良い影響を与えることになったのではないかと感じています。
次回は、<2>施設快適性 についてお話しします。