医療機関、特に小さなクリニックや診療所の受診というとみなさんどんなイメージでしょうか?
私のイメージはこうです。
*白い壁
*ビニール質の床や椅子
*蛍光灯の冷たい光
*みんなが同じ方向を向いて窮屈そうに座っている
*1回の診察で何回か受付を訪れなければならない(受付の時、問診票を渡される時、会計の時、次回の予約の時)
*耳をすますと会計のやりとりが聞こえて気まずい(自分の時も、そのほかの人の時も)
*検査や会計、処方のたびに利用者が動かなければならない
*子供を連れて受診すると周りの目が気になる
*長い待ち時間が有効に使えない
これは、私が患者として医療機関を受診したときに実際に自分が感じた事です。これらを一つずつ改善して行くために工夫を重ねていきました。順を追ってご紹介します。

1)信頼できる建築士との出会い
以前、別の機会にも文章にしたこともありますが、実はこの出会いこそが、みんなの診療所を生み出したと言っても良いと思います。松山建築設計室の松山将勝さんとの出会いです。松山さんとは自宅の設計をお願いする際に出会いました。自宅の設計の時も土地探しにとても時間をかけたので初めてご連絡をしたのはもう10年以上も前の話だったと思います。松山さんの建築チームが持つ建築に対する考え、依頼者(私)の願いを形にするために妥協しない姿勢に私はとても感銘を受けました。実際にそのチームの作り上げた建築に身を置いて生活する事が私の人生を一回りも二回りも豊かにしてくれました。この経験を仕事で関わる人たちにも体験してほしいという想いが『みんなの診療所』を生み出す最も大きな原動力となりました。
2)利用者の動線をできるだけシンプルに
来院された方が建物に入り、受付をすませ、待ち時間を過ごし、診察を受け、必要な検査をして、結果を聞き、会計を済ませ、処方を受けて取り建物を出るまでのできるだけ全てを、利用者は動かずに私たちスタッフが動く事で解決できる仕組みを考えました。最近ではレストランでもテーブルで会計できるお店も多いですし、観光地に行けばフロントではなく、部屋でチェックインや食事なども全て済ませる事ができる宿泊施設もあります。1回の診察で決して安くはない費用をいただく私たちとして、医療機関はあまりにサービス提供者優位にシステムが成り立っているような気がしてなりませんでした。そこになにか改善策を提案したいと言う気持ちで、医師一人で開始する診療所としては多すぎるくらい、利用者のプライベートなスペースを確保しました。3つの処置室、2つの個室待合室、大人と小児を分けた診察室です。これにより、レントゲンと検尿以外の全ての院内での用事がその場で受けられるようにしました。これは建築のみでなくシステムと一体となって初めて機能するものですので、今後のシステムのところでも改めてご説明いたします。

そして、本格的に一人の空間が欲しい方は個室待合室でお過ごし頂くことも可能です。
3)様々なニーズに応えられる空間づくり
子供づれの方でも快適に過ごしていただけるように、診療所には大きくはないですが庭スペースがあります。天気が良い日はお子さんを庭で遊ばせながらご自身の診察をお待ちいだく事が可能です。また、仕事をしながら待ちたい、周りの音が気になる、咳が出るので周りの方と離れて待ちたい、昼寝をしながら待ちたい。そのような方のために2つの個室待合室を準備しました。そこには机と椅子、ベッドが設置されていますので、利用者の思い思いの方法で診察をお待ちいただく事ができます。また、『こどもしんさつしつ』を大人用の診察室とは別に配置しましたので、子供さんの診察をお待ちいだく間も個室空間で周囲の目を気にする事なくお待ちいただけます。このように、日常生活のリズムを壊す事なく各々の自由な方法で診察までの時間を過ごしていただく事ができます。できればお世話になりたくないであろう医療機関への受診を少しでも快適に過ごしていただく事で途中で通院を止めてしまわれる方が一人でも少なってほしいという思いから、このような作りとなりました。
次回は<3>システム編です