みんなの診療所が開所して一月が過ぎました。
この一月は私たちとしても新たな経験の連続で日々が目まぐるしく過ぎていきました。
この一ヶ月を振り返るのと同時に、みんなの診療所として工夫している事についてお話ししたいと思います。
1)受付がない
通常医療機関に行くと受付に行って診察券や保険証を渡します。受付が終わると自分で待合室に行って座ります。
当たり前のこの光景が私には違和感がありました。なぜ受診してきた方が職員に向かって歩いて行くのだろう?例えばレストランに行けば店員さんが歩み寄ってきて席へ案内してくれます。ホテルであれば入り口の前に担当の方が立っていて声をかけてくれます。そもそも受付のカウンターが職員と受診にいらした方との物理的な壁になっているように感じます。
そこで
みんなの診療所は受付をなくしてしまいました。
診療所に入って来た方には職員の方から足を運んでお声かけするようにしております。
事務員が別の方の対応中ならクラークや看護師や私がまずお声かけします。
受付や診察室に入るまでに必要な最小限の事項だけを受付用紙や問診票にご記入頂き、その場で看護師が簡単にお話を伺い、血圧や体温などを測定し、診察開始までの時間をできる限り短くできるように心がけています。

そうする事によって待合室に職員が足を運ぶ機会が増え皆さんとお話ししたり待合の方の様子を伺ったりする事ができます。
診察室にお入り頂く時は、待合室で待っている際の様子、椅子から立ち上がる姿や、診察室に入ってくるまでの足どり、診察室の椅子に座る仕草などに診察に必要な多くの情報が詰まっているため、診察室のドアを私が開けて、お声かけし、受診の方に先に椅子に座っていただいてから、診察を始めるようにしています。
受付に自ら歩いて行って受付をし、立ったまま問診票を記載し(座って問診票を記載したら自分でまた受付へそれを持っていき)職員に名前を呼ばれたら自分で診察室のドアを開けて入室し、入室するとすでに深々と椅子に腰掛けた医者がドシンと待ち構えている。
そんなサービスを提供する側中心に作られた医療機関の構造に違和感があった私は自分の診療所ではそのようにしたくないと思いました。その想いの象徴としてみんなの診療所には受付がないのです。
診療所に訪れた方は私たちの方からお声かけし迎え入れたい。それがみんなの診療所の第一歩です。
2)ドクタークラークの存在
診察室では私ができる限り患者さんの診療に専念できるように、電子カルテ操作や文書関連の作業を私に代行し行ってくれるドクタークラークとともに診療しています。そうすることで、カルテの画面に目をやる時間を最小限にして、患者さんとの会話、問診、診察に専念することができます。また、私に時間のゆとりができる分、次の患者さんの診察開始が早まり、看護師が多忙な時は処置のサポートに入ることができます。ドクタークラークの存在は診療所の診療をより柔軟性に富んだものにするために当院にはなくてはならない存在です

3)インカムとナースコール
スタッフは私が診察中だとなかなか途中で話かけにくいと思います。またPHSや内線電話ですとコールが鳴る上、電話対応中は手が塞がってしまいます。比較的広く待合室を確保した関係で受診に来られた方全員に目を配ることもなかなか困難であることもあり、院内でのスタッフ間の会話や各部屋からのコールの察知のため、wi-fiを利用したインカムとそれに連動したナースコールのシステムを採用致しました。
これにより、診察室にいてもどの部屋からコールがあったを把握することができますし、診察中の会話の中断時間を最短にしながら、少し離れた場所にいるスタッフからの報告を受けることもできます。救急搬入も受け入れている診療所ですので、処置室での状態変化の報告をこまめにしてもらうためにはとても有用です。また、時期的にも発熱や風邪症状のある方は診療所入り口前でナールコールを押してもらう事にしているため、職員全員が同じタイミングでそれを把握できることもとても有意義です。
様々な部屋や空間を用意した分、全体に気配り目配りをすることが難しくなる点や、その事によりスタッフ間の情報共有のタイミングがずれてしまう事を防ぐためのツールとしてインカムやナースコールが力を発揮しています

4)処置室と一体化した事務室、調剤室
ゆったりとした待合スペースと異なり、処置スペース、調剤室、事務スペースはちょっと手狭です。これは少ないスタッフの数でお互いが今やるべき仕事を探して、お互いの隙間を埋めるようにするため、また処置室におられる方への目ができる限り濃厚に行き届くようにするための工夫です。先程のインカムやナースコールの場面でお話ししたように空間が広くなればその分、目が行き届きにくくなります。そのため、みんなの診療所では、最も配慮が必要な処置室内はできるだけ多くのスタッフの目に触れるように、処置室と事務室、調剤室が一体化しています。家具でゆるく仕切られたこの空間は看護師がそのほかの業務で処置室を外している場合も、事務スタッフが処置室内の気配を感じる事ができます。私もこまめに処置室には足を運ぶようにしています。この処置室、事務室スペースは常に多職種が出入りする空間として、スタッフ間の連携を深める役割を担うと同時に処置室におられる方への配慮をできる限り手厚く行う事にも大きく寄与しています。

ゆったりした待合とは一点し、機能が凝縮された空間です。処置室ないは必然的に人の目が行き届きやすくなっており、声をかければ誰かが手を貸してくれます。
この空間のおかげでスタッフ間の連携がより強固になり、利用される方の安心にもつながります。
診療所の入り口から一番近いところにある処置室は、具合が悪く来院された方が、真っ先にベッドに休めるようにという配慮からの配置でもあります。
そして、処置室→待合室→奥のライブラリースペースと診療所の奥に進む連れ、症状が重くはなくゆったりとしたリズムで診察を待つ事ができる方の空間へと変化していきます。
体調の思わしくない人も、予防接種に来た元気なお子さんも同じ空間を共有できるための工夫として、限られた空間、限られたスタッフで最大限のパフォーマンスが出るようにと心がけています。
このように、建築と人を有効に結び付けるための工夫を行う事により、少しでも理想の医療に近づけるようにと願っています。
研修医の時、救急外来で上司が口にした
『救急車の中にはこの世の中で最もおもてなしを必要とする人が待っている』
という言葉を忘れる事なく、少しでも不安な気持ちや医療機関に対する苦手な気持ちが和らぐような診療所となれるようにこれからも小さな一歩を重ねていきたいと思います。