診療所をご利用の皆様。5月26日(日)は休診をいただいて、鹿児島県総合防災訓練に参加してまいりました。皆様にご不便をおかけした分、しっかりと活動内容をご報告させて頂きます。
私は今回、災害医療チームDMATとしての活動の中で『ドクターヘリ本部』の本部長役をさせて頂きました。
今回の訓練では地震による津波被害により奄美空港および名瀬港周辺は浸水し、船および固定翼機(飛行機)での物資や人の輸送が当面不可能という状況が想定されました。実際大地震の際はそのような事態が想定されています。
島内の中核医療機関である県立大島病院をはじめとして、名瀬徳洲会病院、奄美中央病院、大島郡医師会病院などの島内の比較的規模の大きな病院も、停電、断水、建物倒壊などの危機に瀕死、通常の医療が提供できない状況となります。その上、災害により多くの怪我人、溺水、そのほかの患者さんが発生し、一挙に医療機関に押し寄せます。酸素や薬剤などもしばらく島外からの補充はなく、人工透析や人工呼吸器が必要な方、在宅酸素療法中の方などは、島内の医療機関では対応できなくなる状況も容易に想定されます。そのような中でも医療が崩壊してしまわないように、特に多くの医療資源の投入が必要な患者、緊急性のある患者は島外搬送を決断しなければならない場面も多くなります。そうしないと、爆発的に増加する医療ニーズに対応することができず、結果として多くの命が失われる結果となってしまいます。その状態を防ぐため、必要な患者を島外へと搬送する必要があります。

今回、私は、多くの災害医療活動の中で特に、この緊急性のある患者を島外搬送し救命を目指すための搬送計画を立てる部署『ドクターヘリ本部』の本部長役を務めさせて頂きました。ドクターヘリ本部は今回、県立大島病院内のドクターヘリ運行管理室内に設置されました。
同じ部署に私の他に医師1名、看護師1名、業務調整員1名、ドクターヘリ運行管理室のCS(communication specialist)1名の計5名でドクターヘリ本部運営訓練を行い、県立病院総務課職員1名と看護師1名が見学として参加してくれました。
そのほかにも、災害現場から多くの患者さんが搬送されてくる『現場救護所』、ドクターヘリ以外の航空機搬送を行うために一時的に患者さんを集約し搬送計画を立て、その準備を進めるための『SCU』、災害対策本部内の『DMAT調整本部内の航空機搬送調整班』など多岐にわたる訓練が並行して行われました。その各部署の連絡や調整を行い、すべての患者さんを無事に島外搬送させることができるかを訓練する非常に大掛かりな実践的な、そして緊張感のある訓練でした。鹿児島県本土からも多くのDMAT隊員に来島して頂き、また災害対策本部訓練では消防や自衛隊、海上保安、警察など航空機を持つ他機関とも同時に訓練を行いました。
航空機搬送が必要な患者の情報は、各医療機関や関係機関に周知されたGoogleフォームに入力され、即時に災害対策本部、ドクターヘリ本部、SCUで共有されます。その上で、ドクターヘリホットラインに電話をもらうことで、ドクターヘリ搬送の依頼を受けます。同時多発的に搬送依頼が殺到し、また、時には重症度は高くなく、ドクターヘリ搬送は不要な症例についてもたくさんの問い合わせを受けます。その全てを一度受け止め、ドクターヘリ案件とそうでないものを判別します。ドクターヘリ案件については搬送計画を立て搬送を行います。(当日は雨のため実機でのフライトは残念がら中止になりましたが行う計画でした)
大規模災害の時は奄美ドクターヘリのみでは搬送が間に合わないため、隣県からもドクターヘリの応援がいただける場合があります。今回の訓練では鹿児島県ドクターヘリ、宮崎県ドクターヘリ、熊本県ドクターヘリ、沖縄県ドクターヘリが搬送の応援に参集してくれる想定で訓練が行われました。結果として5機のドクターヘリにより6人の患者さんを島外搬送する計画を立てました。そのほかの依頼をいただいた症例については、ドクターヘリ案件ではないため、災害対策本部のDMATに島外搬送の調整を依頼し、必要に応じてSCUでの待機を計画します。こうして、無事に消防防災ヘリや自衛隊ヘリ、海上保安庁ヘリなども含めて依頼のあったすべての患者さんの搬送計画を、ドクターヘリ本部、DMAT調整本部、SCUで完了することができました。
訓練を通して、実際の災害のことを考えた時、大切なことは訓練をして終わりではなく、課題を抽出し実災害に備ることです。その点に置いて今回、私がドクターヘリ本部訓練を通して感じた奄美大島の航空機搬送における課題は以下のとおりです。
1)津波被害をかいくぐりヘリコプターが着陸可能な場所の確保が必要
奄美空港は海抜が低いところにあり、津波被害がある時は使用できない可能性が高く、名瀬港にある佐大熊ヘリポートも同様です。また県立大島病院の屋上ヘリポートは重量制限があり大型のヘリコプターの着陸はできません。また、他県からのヘリコプターが参集した時に、ヘリコプターを安全に駐機させておくことができる場所の確保も必要です。その点で、今回、SCU訓練が陸上自衛隊奄美駐屯地で行われたことは非常に意義深いと考えます。実災害の時に使用可能かは別として、県立大島病院DMATと陸上自衛隊奄美駐屯地の方々が訓練とはいえ一つのミッションを共同で行い関係性を構築できたことはとても有意義だったのではないでしょうか。
2)他県ドクターヘリの応援が必要な場合、給油場所、燃料の確保が必要
奄美ドクターヘリ、鹿児島県ドクターヘリ、沖縄県ドクターヘリなどはその県の地理的な特性上、元々長距離運航を想定して機種選定がされているため、給油をせずより長距離のフライトが可能です。ですが、他県のドクターヘリの応援をもらう場合は、奄美大島到着までにも給油が必要で、奄美大島に到着した後も給油が必要です。ですが、災害直後で航空機燃料には限りがあります。災害時に機関や県の壁を超えて、航空機燃料を融通する協定や仕組みづくりが確実に必要になります。燃料確保の目処が立たなければ、いくらドクターヘリや医療スタッフが準備できていても実際にフライトすることはできません。
3)航空機搬送では搬送人数に限界があるそのほかの搬送手段も含めて他機関との協働が必要
航空機のみの島外搬送だと搬送人数に限界があります。半日から1日程度搬送に時間的な猶予があるのなら船での搬送なども考慮されるべきと考えます。名瀬港が使用が困難な場合でも海峡に存在する古仁屋港であれば船舶の侵入が可能な場合もあると思います。その場合は、自衛隊や海上保安庁所有の船舶を用いることになると思います。実災害の前に、平時の時から、実際に使用できる船舶の目処があるのか、どのようなスキームで航空機搬送と船舶による搬送を分けて行くのかなどシミュレーションや取り決めができればとても理想的です。中々県庁のレベルでその訓練を行うのは難しいかもしれませんが、奄美でいえば、県立大島病院、奄美海上保安部、陸上自衛隊奄美駐屯地、海上自衛隊奄美基地分遣隊などは呼びかけ合えば集まって机上訓練などを行うこともできるかもしれません。より現場に近いレベルでシミュレーションを行うことで実災害の時により有効な活動ができる可能性は高まるのではないかと考えました。
以上が、今回の訓練の原の振り返りです。

日々の診療ももちろん大切ですが、もしもの時のこうした訓練もまた同じようにとても大切です。今後も、DMAT隊員としての訓練には可能な限り参加し、技能の維持と、関係性の構築に努めていきたいと思います。訓練に関わってくださった皆様本当にありがとうございました。そしてお疲れさまでした。
そして、このような訓練が行われいること、まだまだ、実災害までに事前に取り決めや関係構築が必要なことがあることなどをこのブログを通して、皆様にお伝えすることも非常に重要なことと考えます。
明日からまたいつもの診療もいつも通り頑張ります。皆様引き続きよろしくお願いいたします。