前回のブログでは4年目の診療所の変化についてお伝えしました。ざっくりというと、3年目までは診療所を軌道に乗せる3年間、4年目はそこから地域の医療ニーズにフィットしていくための方向性を決める1年間だったと感じています。そして、診療所4年目に感じたこれからの診療所のあり方について、これからはお伝えしていきたいと思います。
その際に、皆様に伝わりやすくするために、3つにテーマを分けてお伝えしたいと思います。
1)原個人のあり方について
2)診療所のあり方について
3)地域全体で取り組んでいきたい課題について
の3点です。
1)原個人のあり方について
これは前回のブログでもお伝えしましたが、開業医となってもうニーズはないと思っていた、若手の指導についてまだ私にもできることがあることを再認識しました。それを支えてくれたのは診療所での研修を申し出てくれた県立大島病院、りんくう総合医療センター、今後連携を組んでいく予定の友愛医療センターなど研修病院の指導担当の先生方と実際に研修に来てくれた研修医の先生方です。その指導医としての資格を維持するための時間、エネルギーを確保する方針としました。そして、失効させてしまおうと思っていた救急科専門医ですが、それを惜しんでくれた仲間がいましたので、こちらも引き続き更新していくことにしました。もし、後進の育成に役に立つことがあるなら幸いです。そして、フライトドクターとしての指導者、災害医療チーム隊員資格も維持していくことにしました。思ったより自分の診療能力、指導医としての資格を維持するために時間を費やす必要があることを感じました。しかし、ここ数年での医療機関の立て続けの閉院などを見ても、島の医療の継続性を見据えての働き方を考えていく必要があると強く感じましたので、目の前の診療を少し縮小してでも、将来への種を蒔くことは欠かせないと考えています。
これをまとめるとこのような方針といえます。
『開業当初想定していたより、教育や診療能力の維持のために時間やエネルギーを傾ける事とします。それは奄美の医療の質を持続的に担保することにつながると信じているからです』
2)診療所のあり方について
2023年度は1日で最大133人の受診、そのうち約60名が発熱患者という状況を経験し、診療の継続性を考えた結果、診療時間を短縮することにしました。その後の変化については前回のブログでお伝えしましたが、受診者の数は昨年度とほぼ同数の状況です。また、上記のごとく原の資格維持などのために講習や学会などにも積極的に参加する方針にしたため、その分、地域の皆様にはご不便をおかけすることが増えると感じています。
また、特に土日祝日や大型連休、年末年始については徐々に受診者が増加傾向にあり、個人診療所一施設で対応し続けることが難しいと感じるほどになりつつあります。その点については3)にて改めてお伝えしたいと考えています。
診療時間を短縮したり、出張のために診療所を休診することが増えても診療所運営としてやっていけるのか?という点についても私は注意を払っていかなければなりません。
その点において、診療の再現性ということも今後の大きなテーマとなってきます。今の診療スタイルは原が救急医だからこその発想の働き方といえます。自分で分析できる範囲でそのように感じるところは以下のような点です。
*受診者数によって、診療スタイルを変えている
*複数人の診療を同時並行することが基本
*出来るだけ早く診ることを心がけている
などです。
特に一番はじめに挙げた『受診者数によって診療スタイルを変えている』
という点です。通常の医療機関はある一定の人数に達したら診療の受付自体を中止し、診療時間内に診療できる人数をコントロールする。もしくははじめから予約制にして受診患者さんの数をコントロールする。という方法を取ることが一般的だと思います。ですが、みんなの診療所は基本的には受診した方は年齢や症状、性別によらずお断りすることなく診療する。というスタンスを貫いています。もちろん、診療時間内に明らかなに見切れない人数が受診した際は少し早めに受付を終了している場面もありますが、そうでない限りは一人でも多くの方を受け入れる方針としています。そのため、例えば午前中の受付人数が30人の時と60人の時では診察スタイルを変えています。そして、同時に出来るだけ待ち時間が長くならないようにも配慮しているため、受付人数が多い時は一人ずつの診察時間を短くすることになります。しかし、診察時間を短くしても診療の質が極力落ちないようにする配慮は必要です。そうなると、どうしても当日中に行わなければならない部分に集中して診察し、後日でも問題ない点については改めてご来院いただくことになります。そのため、常にゆっくりと時間をかけて診察して欲しいとお考えの方は自然と他の医療機関を選んでおられるように感じています。『みんなの診療所』ですので、多くの人がいらっしゃれば、一人一人に提供する医療の量は少なくなるのはやむを得ないことです。ですが、限りある医療資源で出来るだけ多くの医療を提供するという方針は、常に断らない医療を追い求めている中で時間をかけて作り上げられていくものです。これから原以外の医師も含めて、そして時々増えたり、減ったりするスタッフの中で、長い期間、みんなの診療所が診療を継続していくためには、診療の再現性を目指していかなければなりません。その時、昨年のような1日130人の受診に今後も応需し続けることは実際問題として困難なように感じています。どこまでが、人が入れ替わっても継続的に再現可能な状態なのか、それを見極めていかなければならないと考えています。これをまとめると以下のようになります。
『これからの大きなテーマは再現性です。原以外の医師、これから新しく加わってくれるスタッフでも安定して継続していける診療スタイルを目指します。原の志は残しつつ、原スタイルを、みんなの診療所スタイルへとより普遍性と継続性のあるものに昇華させていく必要があります。そのため提供できる医療の量はやや削減せざるを得ない場面もあると考えます。』
3)地域全体で取り組んでいきたい課題について
1)、2)で述べてきたように、未来の奄美への種まき、原でなくても診療所運営を継続していける再現性を持たせることを目指すことで、現在みんなの診療所で提供している医療の量を一時的に減らしていかなければならないと今は考えています。その中で、地域の皆様に不利益があってはいけません。そこで、みんなの診療所が担っている機能の中で、より継続性、再現性を高めていくために、みんなの診療所のみでなく、地域全体で取り組んでくことが望ましいと考えていることがあります。それは、原がみんなの診療所を始めようと思った時からいずれは地域全体で取り組む課題として、問題提起しなければならないと考えていた事でもあります。本来は開業から10年後くらいを想定していましたが、現在の奄美の状況や実際の診療所の受診状況を見ると5年目の現在の段階ですでに提起しなければならない状況であると感じるようになりました。これについては、長くなりますので、また後日、別のブログで皆様にお伝えしたいと思います。