2025年10月に新潟で開催された、第4回日本地域医療学会に参加し、学会発表をしてきました。内容は奄美での地域医療の継続性を考える上で若手医師の育成は欠かせない要素である。という趣旨の内容でした。その発表の中で、数ある研修施設の中でどのような人材に、診療所に来てほしいと思っているのか?という質問を頂きました。これから奄美を、そしてみんなの診療所をフィールドに地域医療を盛り上げていくためには明確にしておかなければならない大切な視点だと感じました。早速、奄美に戻り間少しずつ言語化をしてきました。
順を追ってお伝えさせてください。項目はAからFまでに分けました。
まずはなんといってもこれです。
<A:奄美自体の地域性が好き>
*美しい山や海が好き
*人との繋がりが密な地域で働いてみたい
→ 雄大な自然と、人情味あふれる島の人々、独特な文化は奄美の宝です。少しでも興味があれば一度実際に訪れて、奄美を体験してください。私もそれに魅了された一人です。地域医療はその地域を良いところもそうでないところも丸ごと愛せるかが何よりも大切だと考えています。
そして、勤務医としての自分以外の自分も大切にしてほしいと思っていて、次のような方も診療所にフィットするのではないかと考えています。

<B:ライフワークバランス>
*プログラム上の勤務の他に、挑戦したいことがある
→週4常勤という働き方を採用しており、自分の自由な時間が作りやすい。職員の中には個人事業を並行して行なっているもの、他の組織でも非常勤職員として勤務しているものなどもおります。自分の時間を確保しつつ、常勤職員としての立場で就労できることは当診療所の強みと考えております。
*自然豊かな奄美で子育てをしたい
→地域全体で子どもを見るというような感覚がまだ残っている地域だと感じます。おおらかな眼差しに守られながら子供達はのびのびと育つことができます。ですが、離島地域での子育てにおける課題も存在します。幼いうちは良いのですが、やがて中学/高校となってくると進学をどうするかという課題と向き合うことになります。地域において、就労/進学/地域との繋がりの3点は長くその地域で暮らしていけるかどうかに大きく関わっています。医師である前に一人の人として地域での生活を満喫できるのかという自問自答は地域医療を長く続けていく上で避けては通れない命題で、離島という環境はそれを特に深く考えることができる環境だと考えます。私は家族が奄美大島で暮らすことそのものが地域医療とは切り離せないものだと考えています。
そのほかの点については
地域総合診療専門医、総合診療専門医の7つの資質/能力に当てはめてご説明します。
【地域総合診療専門医の7つの資質・能力】
1 地域の課題を設定する力 : D,E
2 地域の課題を解決する力 : D,E
3 情報を発信し合意形成に導く力 : F
4 連携を推進しチームを構築する力 : D,E
5 人材を育成する力 : F
6 危機を管理する力 : C
7 事業および組織を運営する力 : D.E
【総合診療専門医7つの資質・能力】
1. 包括的統合アプローチ : C,D,E
2. 一般的な健康問題に対する診療能力 : C,D,E
3. 患者中心の医療・ケア : C,D,E
4. 連携重視のマネジメント : D,E
5. 地域包括ケアを含む地域志向アプローチ : C,D,E
6. 公益に資する職業規範 : B,F
7. 多様な診療の場に対応する能力 : C
<C:診療内容>
*病棟管理よりは外来診療中心に研修したい。
→受診に来た方は絶対に断らないことを信条に診療をしております。多様な外来患者さんを経験できると思います。現在は在宅医療はできる体制になっておりますが、実施に担当している患者さんはいません。今後マンパワーの課題がクリアできれば在宅医療にも取り組んでいきたいと考えています
*外来診療レベルの救急対応を学びたい。地域の救急診療の仕組みについて体験しながら学びたい。地域医療の中での女性診療について学びたい
→所長は救急科専門医、統括DMAT,日本航空医療学会認定指導者でもあり救急、災害、病院前救急診療について現在も関わり続けています。連携施設の県立大島病院救命救急センターでは救急科での研修も可能であり、ドクターヘリ基地病院でもあります。消防組織との関係性も良好です。地域の総合診療において救急の要素を特に重点をおいて経験したい方にはフィットできるプログラムであると考えます。危機管理能力という意味でも、救急の概念は大いに活用できると考えます。
また、2026年度以降も産婦人科専門医を持つ小徳医師が常勤医師として在籍することが決まりました。婦人科の外来診療、地域での性教育など、総合診療医に求められる女性診療や性教育について学ぶことができます。
<D:組織の枠を越えた医療の必要性に触れる>
<E:地域課題の解決に取り組む>
*組織をまたいだ連携を実践しながら経験したい
→個人診療所、県立病院(超急性期~急性期)、私立中核病院(急性期~慢性期~在宅医療/施設)を同一プログラムで経験できます。医療的な面のみでなく、組織を越えた協働の大切さを実感できるプログラムであると考えています。また総合診療と一口に行っても、外来/入院/在宅の別、患者さんの超急性/急性期/亜急性/慢性期/終末期の別毎に求められるものが異なることを経験できるプログラムとなっています。
*地域に存在する医療や健康に関する課題を見つけ、自らその解決方法を模索したい
→どの地域にも医療や健康に関する課題は山積です。自分が感じる課題を自分のできる範囲ですぐにでも介入していけるのが、小さな個人診療所ならではのフットワークの軽さだと考えています。
*個人や単独の組織では解決できない課題は行政や他組織と協働して解決策を検討する過程を経験したい
→しかし、個人や診療所単独で対応できることには限界があります。市町村や他の医療機関とともに新たな解決策を検討しなければならない場面もあります。そのような経験も診療所を通して経験することもあるかもしれません。
*自らの目指す医療を実現するための小さな挑戦、変革を実践するためのステップを経験したい
→多くの組織が関われば関わるほど、各組織の仕組み、業務内容、新たな取り組みを行うために踏むべき手順はさまざまです。どの組織がテーブルにつけば自分の計画は実現できるのか、その担当窓口になる部署はどこなのか、担当部署を経て組織内で上位部門の意思決定も必要なのか。各組織がどの部分を担当するのか、費用負担が発生するかなど、検討することは多岐にわたります。よりコンパクトにすれば機動性は増しますが、できることは少なくなります。より大きなプロジェクトになれば踏むべき手順や組織毎の役割分担は複雑になり時間や費用がかかります。その中で、自己実現のためにどの規模感を目指すのかなどの検討も必要です。小さなコミュニティーだからこそ、そのような課題解決に向けた検討を実感も持って経験することが可能と考えます。
<F:教育/保健活動/予防医療/研究>
*スタッフ教育、研修医教育、医学生教育に関心があり実践してみたい
→来年から鹿児島大学の医学生の受け入れが始まります。また、県立大島病院、りんくう総合診療センターの研修医の地域研修の受け入れも行なっております。総合診療専門医の研修施設でもあります。さまざまな時期の医師、医学生の教育に関わることができます。また、意欲あるスタッフたちも勉強会などを通して教育に関わって頂けたら嬉しいです。

*くらしの保健室や学校での講話などを通して地域の方達への教育にも取り組みたい
→医療機関に受診する前の、日常生活での行動変容はとても大切だと感じていますが、同時にとても難しいとも感じています。健康の社会的決定要因などにも配慮し、少しでも日常の中でできることを増やしていく活動にも力を入れていきたいと考えています。また、今後、診療所内でもくらしの保健室を定期開催できるよう、院内の体制を整えていく予定です。
*予防接種、健康診断など 疾患発症前の予防医療にも積極的に関わりたい
→保健活動として 予防接種、健康診断については開所以降力を入れています。病気で受診することはなくても、予防接種や健康診断で受診の機会があれば、いざ体調に関する不安が生じた時の受診のハードルが下がると考えているからです。地域に一番近い医療機関として公衆衛生/保健活動に取り組んでいます。
*産業医として、職場の労働環境の改善、健康管理などに携わりたい
→救急医として働く中で、労働災害による事故やメンタルヘルス不調は度々経験してきました。地域に出たら産業保健にも関わりたいと思い、産業医資格を取得しました。現在は1企業の嘱託産業医をさせていただいていますが、中々本格的な介入ができていない状況です。もし共に取り組んでくれる仲間がいればより充実した産業医活動を行いたいと考えています。
*積極的な情報発信
→ブログ、SNS、暮らしの保健室、ローカルラジオ、地域の講演会など機会があれば積極的に情報発信を行なっています。これは医療と日常を少しでも近づけたいと思う、診療所のコンセプトを実現するためには必須の活動と考えています。同じ話を5万回すれば島民全員に話したことになるという考えのもと、一人一人の顔を思い浮かべながら、または目を見ながら、大切なことは時期や場所を変えて繰り返し伝えることを惜しまないようにしています。それを繰り返しているうちに少しずつ自分の周りの景色が変わってくると信じています。
*地域で働きながら研究もできる医師を目指す
→当診療所の小徳医師は離島でも診療と研究を両立して行い、離島から新たな知見を発信できるようになりたいと願っています。この動きはまだ走り出したばかりですが、診療所としてその考えに大きく賛同しています。考えに共感してくれる仲間を募集中です。






