今年に入りに診療所が臨時的に診療時間を短縮するのは2回目となります。診療所をご利用の皆様にはご不便をおかけしますが、新型コロナウイルス感染症が10日間の療養期間を要し、濃厚接触者の自宅待機が必要な感染症である間は今後も同様の決断を行う場面もあると思います。その決断の背景となる考え方のいくつかをここで改めて述べさせて頂きます。きっと、診療所の新型コロナウイルスとの向き合い方、そしてその根底に流れる、原の医療に対する考え方や、自分達に降りかかる脅威との向き合い方などにもつながってくるものがあると思いますので、その辺りにも触れることになるかもしれません。
1)新型コロナウイルス対応は基本的に災害対応だと考えている
特に、年始以来の急激な感染者の増加を認めるようになり、診療所でも新型コロナウイルス抗原検査を開始するようになってからは、この状況を『災害対応』だと考えています。つまりいつかは平時の状態に戻ると考えているということです。それは、元通りになるという意味ではありませんが、『災害対応』が必要なくなる時がくると考えているということです。今の所漠然と考えている原の『災害対応』でなくなる時とは、
”濃厚接触者の自宅待機”が必要なくなる時だと考えています。

2)この局面で一番重きをおいているのは自分達が倒れてしまわないこと、次に今をある程度受け入れること
災害と捉えている今の局面において、最も避けたい事態は診療を続けることができない状況になることです。それが地域の皆様に最もご迷惑をおかけすることになってしまいます。それだけは避けなければなりません。そのため、日頃から診療中は感染対策には気をつけ、診療を終えた日常生活においても職員全員が十分なプロ意識を持って感染対策に取り組んでくれています。それでも今回のように、新型コロナウイルス感染は発生してしまいます。もちろん、診療所の責任者としてこの事実は重く受け止めており、職員をきちんと感染から守りきれなかったことはとても反省しています。感染した職員が1日も早く元気になって、いつも通りの元気な姿でまた診療所に戻ってきてくれることを心待ちにしています。
このまま残された人員で通常通りの診療を続けることも10日間の自宅療養期間なら可能かもしれません。しかし、感染症ですので、数日後には診療所内でさらに新たな感染者が出現するとも限りません。職員の家族などに感染者を認めて濃厚接触者として出勤できなくなる職員が出てもおかしくありません。職員の子供の学校や保育所、幼稚園が休園や休校になり出勤できなくなる職員がいるかもしれません。そして、無理して通常営業を続けていると、感染対策の注意が不十分になりさらに感染リスクが高まるとも考えています。
だから、今回のように、職場に不確定な要素が出現して先が見えない時ほど、
確実に実行できることに専念する。
安全を第一に考えて無理をしないようにする。
ということは大切だと考えています。

その判断基準のもと今回は、さらなる感染者を出さないために、そして月末からのゴールデンウイーク診療を実施可能とするために、ご利用の皆様にはご不便をおかけすることを承知で診療時間短縮の決断をしました。
また、新型コロナウイルスが世界に広がってから、多少生活に制限が加わっても感染対策をしっかり行うべき、という考え方の人もいる中で、重症化が少なくなったオミクロン株の時期に入り、それほど厳しい生活への制限は必要ないのではないかという考えの方もおられます。このように今まで接したことのない新たな脅威が出現した時に、さまざまな考え方、さまざまな反応をする人たちがいるのだということを改めて感じることになりました。
私は2011年に青森県八戸市で東日本大震災に被災し、津波被害の現場を目の当たりにしました。そのような自然の脅威に対しても、その場を離れ移住する人、高台に移り住む人、堤防工事を望みその場に留まる人と反応は様々でした。私はその後奄美に帰ってくる際に、永住の場所としての土地探しをしていましたが、東日本大震災を経験したため、海沿いの土地を探していたところを考え方を変更し、沿岸部から離れた場所へ住むことを決断しました。1000年の1度といわれた地震ですので、それに備えずに住みたいところに住むという選択ももちろん十分理解可能な選択肢だったと思います。ですが、最終的に私はそうはしませんでした。それは個々の価値観によるものだと思っています。
新型コロナウイルス感染症が日常生活に入り込んできてからというもの、私は職場ではもちろんしっかりと感染対策をおこなっておりますが、完全に排除することはできない脅威としてある程度はその存在とともに生きていかなければならないと思っています。つまり、ゼロコロナは無理だと思っています。ですから、必要があれば自分も含めて職員も島外への移動は制限していませんし、その前後での検査も強制していません。職員のワクチン接種についても本人の意思に任せています。発熱外来においても検査の希望がない方には無理に検査は勧めませんし、特にお子さんについては検査を断固嫌がる方については無理矢理はおこなっていません。
そして、周囲で感染が広がりそうな予感があれば、営業規模の縮小や学校、保育園の休校休園などは止むを得ないと思っています。陽性者が出たような場合、周りの人が濃厚接触者でないにも関わらず全員検査をして陰性ならいつも通り出勤してもらう。風邪症状の人がいれば本人の意思と関係なくとにかく検査をして陰性が確認できなければそのご家族も出勤や登校ができない。のようなやり方は私はあまり好きではありません。ですから、今回も職員には無理に検査は行いませんでした。そのかわり、新たに数名感染者が出た時も休診にしなくても済むように、診療時間を短縮し、もし新たに感染者が出たときに継続する診療と、一時中断する診療を即座に決定し、最大あと2名感染者が出たとしても完全な休診にせずに済むように対策を練りました。10日間の療養期間や濃厚接触者の自宅待機期間が今後も継続する以上、このような変化はいつでも起こり得るものとして、職場としても余力を温存しておかなければなりませんし、逆に職場を離れた一個人としても、自分の周囲の環境がいつも通りのサービス提供ではない状況が容易に起こりうるということを理解しなければなりません。
そんな考えのもと、職場で感染者が出た時も必要以上に不安になることなく、過剰に反応することなく、でも感染対策は今まで通り行い、感染対策が不十分にならないような量に業務量を抑えるという決断を行い今回の診療時間短縮の決断となりました。
診療時間の短縮とともにおこなったことは
*毎日職員の健康状態に関する経過をSNSやブログで報告した。
*職員には希望があれば何回でも新型コロナウイルス検査を職場負担で行うこととした。しかし、希望のない方にまで強要はしないこととした。
*感染者が増えた時にその人数に応じて残す業務と中止する業務を決定した。
*いつも以上に少しでも健康状態に不安がある場合は仕事を休むように勧めた

私としては、今回のようなもしもの時はいつもより安全に配慮し、一旦ブレーキをかけて、余力も持たせ、確実に安全に実行できることに集中するということが、最終的に職員にとっても、地域の皆様にとってもダメージが少ないと判断し今回の決断となりました。それでも診療所をご利用の方にご不便をおかけしていることは事実ですので、大変心苦しい気持ちもあります。しかし、ある意味これが今のみんなの診療所の底力の限界でもあり、提供できる医療の限界でもあります。やりたいけれどやれない、やりたいけれど今は安全が優先。そんなやりたいことと、できることの狭間に立たされて悩みながら前に進む姿も皆さんに見てもらいながら、みんなの診療所を感じて頂けたらと思って今回の文章を書きました。
私は地域の皆様の役にも立ちたいですが、職員が苦しくなく長く安心感と誇りを持って診療所で働いてほしいと思っています。その点において、身近に感染症の脅威が差し迫ったときに無理をしてシフトを組んだり、無理をして出勤をしたり、受けたくない検査を受けるように言われたり、受けたくない予防接種を受けるように言われたりするのは職場環境として思わしくないと考えています。職員を守りながら、診療所を守りながら、それでも出来るだけ地域の皆様のお役に立ちたいと考えた結果の今回の決断でした。
もちろん、ご批判もあって当然と思っております。そこも含めて、私の脳の中をさらけ出し、みんなの診療所をより良く知っていただくことが、みんなの診療所の在り方としてあるべき姿であると考えています。最後までお読みいただきありがとうございます。今後とも、医療を身近なものとして感じてもらうために必要な情報はできる限り開示しながら、地域の皆様とともに在る診療所となれるように悩みながら、工夫をしながら少しずつ前に進んでいきたいと思います。今後とも皆様の応援、サポートよろしくお願いいたします。