2025年は、みんなの診療所にとってとても変化の大きな一年となりました。
ブログやSNSでもその様子はお伝えしてきましたが、1年の締めくくりとして、その変化の中で原が感じた、『自分の殻を破らなければならない』という感覚を中心にこの1年を振り返りたいと思います。
<診療面での変化>
1)小徳が診療所の一部になることのインパクト
2025年4月小徳が診療所の仲間に加わってくれて、26年度以降も診療所スタッフとして共に歩んでくれることになりました。これは医師が一人増えたという意味合い以上に多くのものを生み出しました。診療面で言うと
*婦人科疾患の診療を開始することができました。
*受診者数が多くなるとどうしても十分対応ができていなかった、より複雑な症例に対しても対応できるようになってきました。
*原が島内にいない時も休診にせず診療を継続することができるようになりました。
この変化は非常に大きいものがありますが、それに加えて
*研修医や学生さんの指導や教育にもより注力できるようになりました。
*ずっとできずにいた職員向けの勉強会を開催できるようになりました。
その結果、原の精神的、肉体的な負荷は格段に少なくなりました。
それと同時に、その変化を真の意味で診療所の一部と捉えることができるまでにはある程度の時間が必要でした。それは私自身が診療所長として、次の段階に進ことができるのかを問われているかのようでもありました。
例えば、同じ患者さんを診ても診察する医師が異なれば管理や治療について違う考え方を持つ場合もあります。もちろん、それは病院勤務時代も同様でしたが、今までずっと原一人だったところに、その変化が起こることは十分その心の準備をしてきたつもりでしたが、元々多くの医師が働いている大病院でのそれとは異なります。自分の脳がそれに順応するのにしばらく時間がかかりました。診療所の目指すべき方向がブレてしまうかもしれない。今までのみんなの診療所のイメージが変化してしまうかもしれない。それが、受診してくださる方に受け入れられないかもしれない。もしくはあまりにすんなり受け入れられすぎて、逆に原がこだわっていたものが小さな事に思えてしまうかもしれない。そんなことが幾度となく原の頭の中を行き来していました。
ですが、明らかなことはただ一つ。
小徳は彼自身が患者さんのために最善と思う選択をしている。と言うことです。
私もそうしているように、小徳もまた、どうしたらこの患者さんにより良い医療や生活が提供できるかを真剣に考えている。
だからこそ知恵を出し合って、診療所全体として最も良い医療を提供できるのだと感じました。それを理解することと、共感することに幾分の時間差が必要でしたが、半年もすると、彼の想いやリズムが診療所全体に染み渡ってきたことを私も実感することができました。
結果としてその変化は原自身にも、スタッフにも、診療所全体にも、おそらく地域全体にも良い効果をもたらしました。
小徳が私に気遣いをしてくれつつ、彼の信念を貫いてくれたおかげで私自身もひとまわり成長することができました。

2)デイサービス型産後ケア開始の準備
まだ正式な開始時期については未定ですが、現在龍郷町と調整の上、デイサービス型産後ケアを当診療所で開始する計画をしています。これは当院に小徳が来てくれたことに加えて、助産師が仲間に加わってくれたことが非常に大きなきっかけでした。
産婦人科のないみんなの診療所に助産師が就職することを決断するにあたり、その勇気が必要だったろうことは鈍い私でも容易に想像できます。その想いに応えたいという気持ちもあり、昨年秋ころから全職員に、デイサービス型産後ケアの開始についてどう思うかと一人ずつ意思確認をしたところ、職員全員が『やったほうが良いと思う』と、言ってくれました。
これにまた私は心を打たれました。助産師といえども、今はそのほかのスタッフとともにそれ以外の看護師としての業務に従事しています。助産師としての業務を活かした診療を行えば、当然、その他の業務に割くことのできる時間は少なくなりますし、他のスタッフについては、今まで経験したことのない業務のサポートをすることになります。それでも、誰一人反対することなく、開始に向けて動き出す決断をすることができたことに私は驚き、感動しました。
地域のためにはやったほうが良い、助産師としてのスキルを使わずにいるのは勿体無い。そんな声が職員から聞けたことはとても嬉しい経験でした。
私が診療所を運営する上で大切だと思っている2つのこと。
*やったほうが良いと思うことは困難が伴ってもやる
*ただ生活していくための手段ではなく、職業人として自分たちのやりがいと誇りに繋がるような仕事をする。
この2つがスタッフ一人一人にもしっかり備わっているのだということを改めて感じることができ、私はスタッフに恵まれて仕事ができているのだと再確認することができました。
<診療以外の活動の広がり>
1)みんなの診療所 × くらしの保健室 = 『みんなの保健室』
小徳がライフワークとしてずっと行っていた、くらしの保健室を診療所の診療の一部として開催することができました。これはまず、小徳が診療所のスタッフとしっかり馴染んでくれて、彼の思いに共感してくれてこそ成り立つ企画ですので、その関係性を築いてくれたみんなに感謝の気持ちでいっぱいです。
原ももともと、もっと診療以外の日常生活の場に出て行きたいという気持ちがあったのですが、日常診療で手いっぱいで、そこにたどり着くことができずにいました。
小徳が来てくれたおかげで、その可能性が見えてきた上に、当院は副業OKという医療機関であることもあり、スタッフの中にも『もう一つの顔』を持っている職員も多く、医療とその外をつなぐ仕組みに理解を得られやすい環境にあったことも、この取り組みの実現可能性を高めてくれたと思います。
ですが、ここでも原は悩みます。
例え開催が2か月に1回だったとしても、土曜日に『みんなの保健室』を開催する以上は、その日のスタッフは少し多めに設定しなければなりません。子育て世代真っ只中の職員も多い中、土曜日の出勤が増えること、その分その他の日のスタッフが手薄になることに理解が得られるかは、不安がありました。
2026年2月に初回をやってみて、4月に第2回目を企画できたことは、最低限その点はクリアできたのかな?と思っています。しばらくは2~3か月ごとの開催を計画しつつ、無理なく、診療所のスタッフも、みんなの保健室に来てくれる方も、みんながこの時間を良いものだと思ってもらえるような企画として継続してければと思っています。
インフルエンザワクチンシーズンや感染症流行期はしばらく開催できない時などもあるかもしれません。ですが、無理なく続けていることが何より大切だと思います。そして、この時間と空間がご利用いただく皆様にとって有意義なものであるのみでなく、診療所スタッフのやりがいや誇りに繋がるような存在であることが私にとってはとても大切な事でもあります。
みんなの保健室開催の決断に踏み切ることができたのも、スタッフの共感、サポート、があったからこそです。+αのエネルギーを診療所に注いでくれる、心強いスタッフに、私はまた一つ成長させてもらいました。本当にありがたいことです。

2)奄美群島包括的性教育プロジェクトの立ち上げ
これは診療所単独の企画ではなく、それこそ、県/市町村/学校/医療従事者など多くの組織、人間が関わる大きなプロジェクトです。ことの発端は、昨年度末で奄美大島を離れることになった小田切先生の後を引き継ぎ小徳のもとに多くの性教育の依頼が来たことでした。
ここでも、原は日常診療と、性教育に出向くために小徳が診療所を不在にすることのバランスに悩むことになります。また、その際の小徳の移動や講義中の管理責任はどこに発生するのかなどについても大変思い悩みました。また、個別に依頼がくるこのやり方の継続性の危うさについても非常に不安を感じました。今後、毎年この調整を個別に行うとすると、講義に出るその瞬間のみでなく、調整そのものが通常診療を圧迫しかねないし、小徳が奄美を離れる日が来たら、また同様のことを繰り返すことになると感じました。
これは、診療所の中のみで解決できない課題であり、特に悩みました。各学校への連絡のみに留まらず、各市町村の教育委員会、県組織である大島教育事務所などにもこの現状を聞いていただきました。
あまりにスケジュールが直前だったり、時間の調整の猶予がなかったり、小徳の立場やプライベートな時間が守られていなかったりしたため、お断りしなければならないケースもあり、私も小徳も申し訳ない気持ちになると同時に不安な気持ちになりました。
この時期は、各機関の皆様にもご迷惑やお手間をとらせてしまったと思います。お付き合い頂いた皆様、有り難うございました。そして、失礼いたしました。
そんなことを繰り返している中、徐々に現状を理解してくださる組織が増えてきて、皆、自分たちのできる範囲で協力してくださり、理解を示してくださるようになりました。
特に大島教育事務所様を中心に、市町村の教育委員会にもご協力をいただき、翌年度の講義の希望を事前に集計し、性教育講師バンク全体での講義の割り振りが事前にできる仕組みを構築できたことは、当初の私の予想を遥かに越える大きな出来事だったと感じます。小徳の想いに共鳴してくださったすべての関係者の皆様に心よりお礼を申し上げるとともに、2026年度から始まるこの取り組みが奄美大島に住む子供達の未来を陰ながら守る存在となるように、今後も試行錯誤をしながら、組織の壁をこえて繋がりを生む仕組みとして、また長く持続可能な仕組みとして成長していけることを心より望んでいます。診療所としても、そのためにできるサポートは惜しまないつもりです。小徳のみでなく、当院の看護スタッフも少しずつお手伝いさせていただく予定でおります。この非常に大きな流れの一部に診療所が関わることができることを誇りに思います。

<教育/研究を診療所のもう一つの柱にする覚悟>
先ほど、小徳が来てれたことの変化として教育の充実をあげましたが、今後は質、量ともにさらに教育にも重きを置いていく必要があると感じました。
2025年度は、大阪のりんくう総合医療センターから3名の地域研修を受けれた上に、高校生の見学が2名、医学生の見学が2名、また名瀬徳洲会病院や県立大島病院で研修中の先生が、飛び込みで見学に来てくれるような出来事も増えました。そして、2026年からは鹿児島大学の医学生、看護学生の実習も受け入れを開始させていただくことになりました。また、りんくう総合医療センターからは4名、そして今年ついに初めて沖縄県の友愛医療センターから1名地域研修を受け入れさせていただくことになりました。また、4月~6月の3ヶ月は救急科の6年目医師が地域医療の研修のため診療所に来てくれることになりました。
このように1年のうちのほとんどの時期で学生や研修に来てれる医師がいることは診療所としても非常に活気にあふれ良いことです。また、奄美の良さ、地域医療の良さを知ってもらうためにも非常に大切で、奄美の医療の未来を少しでも明るく照らす要素としても欠かせないと感じています。その覚悟を形で表すため、昨年は研修者用の部屋を一部屋借りることにしました。そして、今年は研修者用の自動車も準備する予定です。奄美での研修は仕事のみでなく奄美そのものを体験してもらうことがとても大切だと思っていますので、住環境、移動手段はインフラとして整備が必要だと思いました。決して小さな投資ではないので、診療所が本気で教育に取り組んでいくんだということを自分自身に言い聞かすためにも必要な決断だったと思います。その決断が正しかったと思えるようにするためには今診療所に来てくれる学生さんや地域研修の医師たちの経験を良いものとして、次が続いていくことでしか確かめることはできません。決断を恐れず、今を大切に未来を描いていけたら嬉しいです。
また、小徳は奄美で臨床もしながら、研究もできる働き方や地域の雰囲気を作り上げたいとも言っており、それを診療所としてサポートすることが奄美での、地域での医療のやりがいを生み出しより多くの人に奄美の地域医療に魅力を感じてもらうためにも大切だと原は考えています。
そして、原も小徳も今年、総合診療専門医試験を受けます。奄美大島には他にも何名か総合診療専門医がおられますので、総合診療を学ぶなら奄美で!という島になれたらと淡い期待を抱いています。
<経営面の安定化と利用者負担の狭間>
みんなの診療所では、できる限りコンパクトな医療を目指して診療しています。
必要以上の検査や投薬はせずに、利用者の経済的、時間的、肉体的負担が極力少なくなるように努めてきました。そのため、時として希望しているのに検査を行わない場合や処方を行わない場合もありました。その検査に医学的な意味合いが低い場合や、その薬にメリット以上にデメリットが多いと思われる場合は、利用者の希望があったとしても対応できない場合がたびたびあります。このような検査や投薬も、もし希望に沿って行えば、利用者の満足度は上がり、診療所の収益は上がりますが、そこに医学的なメリットが必ずしも大きいとは言えない場合もあります。一人ひとりの希望と、地域全体の医療のバランスをどう取るかは、常に悩みながら判断しています。その点を出来るだけ丁寧に説明しているつもりですが、それでも1日150名の受診という日にはお一人に向き合うことができる時間も短く、十分な説明が行き届かず、結果として利用者の不満として表面化することもありました。それでも、限りある医療資源や医療費を大切に有効活用することは必要だと感じているので、できる限り利用者の方にはその点をご理解頂けるように努めているつもりです。また、医療体制を整備することで診療報酬として頂くことができるいくつかの項目も今まで、整備体制はあるものの届出をせずに少しでも利用者の負担が少なくなるようにしてきました。
しかし、小徳も診療所にきてくれて、診療所の診療の質は格段に上がりましたし、原一人の時よりもゆとりが生まれました。原も小徳も目の前の方に最大限良い医療をお届けしたいと思っていますし、出来るだけ診察をお断りすることは避けたいと思っているので、一人でも多くの受診者を受け入れられるように心がけています。そして、検査や投薬に関する考え方も2024年度よりは柔軟な対応になっていると、私自身は感じています。まだまだ、利用者全員に十分な満足をご提供できていない時があるのも事実ですが、そのような経験の一つ一つを学びの糧として、限りある物的、人的資源の中での最良を目指していきたいと考えています。
その中で、現在の人件費の上昇や物価高は医療機関にもそのほかの業界同様に訪れています。昨今のニュースでも大規模医療機関の経営不振などを目にされた方も多いと思います。
2026年度の診療報酬改定ではいくらかその対策がなされる方向性ですが、診療所としても、より自分たちの信じる診療スタイルを実践し、診療以外のみんなの保健室や、性教育や、医学生や若手医師の教育なども継続していくためには、診療所の運営自体が安定していることが何よりも大切です。2025年度はそのための改善も改めて見直しました。幸いなことに、熱意と包容力のある事務主任が着任してくれたおかげで、事務長の負担も幾分軽減され、より力強く、事務部門としても活動が出来るようになりました。医療機関において、医療や看護との両輪として、その施設の事務処理能力は診療所の屋台骨として欠かすことのできない部分です。そこについてもパワーアップを図り、よりコミュニケーションを密にすることにより、原の信念は共有しつつ、より多くの人のアイデアで、柔軟かつ持続可能な診療所へと成長できるその礎が完成しつつあると感じます。2026年はさらに、小徳や若手医師とともに診療をする賑やかなみんなの診療所の姿が、新しい診療所の日常風景として定着させることができるように、地固めをする1年となると考えています。
長くなりましたが、
この2025年度の1年間は、それまで原の考えが突出して前面に出ていた診療所のスタイルに新しい風がたくさん吹き込まれたことにより、原がその変化に悩んだ1年でした。その凝り固まった頭をほぐし、自分の殻を打ち破り、仲間の価値観を診療所に取り込み、任せる。果たしてそれが自分にできるのか、自分自身に挑戦する1年でした。その結果、自分だけでは実現できなかった診療所へと新たな一歩を踏み出し、結果として本来診療所が目指すべき姿により近づいた1年となりました。こうして、私の手を離れたところで診療所が動き出すことに私が適応できるかどうかこそが、診療所のさらなる成長を左右するであろうということを痛感しました。
2026年度はその感覚を信じて歩みを続け、今まで積み上げてきたものを踏み固め、さらに成長するための1年とできればと考えています。





