2023年5月27日で地域で長きにわたり耳鼻咽喉科診療を支えてきてくださった、大野耳鼻咽喉科が閉院しました。私も今まで県立病院勤務の時期を含め、多くの患者さんを大野先生にご紹介させていただき、いつも快く患者さんをお引き受けいただきとても助けていただいていました。本当にお疲れ様でした。そしてありがとうございました。
そして今、奄美大島には耳鼻咽喉科クリニックは無くなってしまいました。
みんなの診療所は開所当初から受診された方は私の得意不得に関わらず一度は患者さんを受け入れ診察、評価をして必要があれば高次医療機関やその他の開業の先生へご紹介をするというスタイルで診療をしています。その影響か、救急科を標榜しているからかはわかりませんが、耳鼻咽喉科領域の症状の患者さんも今までも多く受診されていました。
鼻炎、副鼻腔炎
中耳炎、外耳道炎
めまい症
唾石症
耳下腺炎
耳異物、鼻異物
鼻出血
鼻骨骨折
上顎骨、下顎骨骨折
中には診療所での診療を経て耳下腺腫瘍や喉頭の腫瘍などが発見された方もいました。
その中で、特に、診療所の中で診療がうまくいかなかったものがあります。
それは『耳異物の除去』です。
形状が複雑なもの、虫などはピンセットで取り出すことが比較的容易なので、今までも処置可能なことが多かったですが、その中でも『ビーズ』を耳に詰めてしまったケースはここ最近2例続けてうまく処置ができず、大野先生や県立病院にご紹介とさせて頂くことになってしまいました。今後は毎日耳鼻咽喉科診察が受けられる環境ではなくなるため、私の処置の精度を少しでも上げなければならないと感じました。
そして、そのほかにも日常的に通院が必要な、鼻ネブライザーが必要な患者さんや、鼻吸引が必要な患者さんなどの対応も今後、ニーズが出てくるのではないかと考えました。
たった半日の見学で何が変わるかは正直自信はありませんでしたが、私は少なくとも何もしないよりは皆さんの役に立つ可能性があると考え、大野先生にお願いして、外来の見学をさせていただくことにしました。
2023年4月13日木曜日。診療所の休診日を利用して半日だけ外来見学をさせていただきました。快く受け入れてくださった大野先生、スタッフの皆様本当にありがとうございました。
まず、私が感じたことは
『道具が全然違う』ということでした。
特に、耳処置のためには耳処置のための道具がたくさんありました。みんなの診療所には耳鼻科用のピンセットが2本と鼻鏡が2つあるだけで、そのほかは、他の処置でも使っているピンセットや器具を代用して対応していました。今まで見たことがない器具がたくさんありまずはそれらのうちの一部でも揃えなければならないと感じました。
そして、二番目は
『拡大鏡が必要』ということでした。
今は主に観察のためにビデオ式の耳鏡を診療所では使っており、観察にはとても便利なのですが、耳の処置が必要な場合は肉眼で見える範囲で行うしかありませんでした。

しかし、処置の精度を上げるためには拡大鏡でしっかり耳を観察した上で、処置ができなければなりませんでした。
その他の、今まで気になっていた、薬の使い方や検査の方法などを丁寧に教えていただき、あっという間に半日の外来見学が終わりました。
診療所に戻ると、早速、カタログやネットを調べて、必要な処置のための器具や拡大鏡の注文をしました。日に日に注文した物品が届き、写真のような器具たちが揃いました。

さて、大切なのはここからです。
私は4月の外来見学で初めてこれらの器具を目にし、手に触れて実際に使ってみるのはこれが初めてです。拡大鏡に関してはまずは組み立てから自分で行い、自分の目に合うようにセッティングし、無事に自分の頭や目にフィットするのかどうかからチェックしなければなりません。
そして恐る恐る拡大鏡を装着し、メガネ越しにのぞいてみました。
すると、まずは拡大された何かが見えるのですが、自分の見たいものを視野の中心に持ってくるのも慣れが必要なことがわかりました。そして、焦点が合う距離が決まっているので、一番ピントが合い拡大されて見える位置も体で覚える必要がありそうです。そしてLEDライトのスイッチを入れてみると、視野の中心にライトが当たりません。ライトと拡大鏡の位置を調整し、視野の中心にライトが当たるようにセッティングが必要でした。
こんな具合に、まず、拡大鏡で見たいものを中心に見る。というだけでも1日2日を費やしました。そして、次に、自宅で子どもたちや妻の耳を観察しました。すると、しっかり視野に鼓膜が見えているはずなのですが、普段見えている倍率や距離感ではないので、見えているはずなのに脳がきちんと認識していない状況が起こりました。初めは、私が買うべきものを誤ったためにきちんと見えないのではないかと、高価な買い物を実物を使用する前に購入したことを一瞬後悔しましたが、そんなことは誰にも言えず、『おぉ。よく鼓膜が見えているぞ』と子供達には伝えました。
もちろん、妻にも。『でも、しばらく慣れが必要だから毎日、耳診察させてね』と、付け加えました。すると、2日、3日と経つうちに、徐々にいつもビデオ式の耳鏡に映し出される鼓膜の姿と同じものがきちんと拡大鏡を通して私の脳にも映し出されるようになりました。しかし、拡大鏡を外して、いつものメガネに戻ると、しばらく車酔い、船酔いした時のような景色が歪む感じがしていました。この、乗り物酔している感覚も日と共に軽減してきています。
拡大鏡の到着から1週間くらいしてようやく
きちんとセッティングし
見たいものが中心に来るようになり
LEDライトも真ん中に当たるようになり、
見ているものをきちんと脳が認識するようになり
拡大鏡を外した後も乗り物酔いのような感覚にはならなくなりました。
ここからようやく処置の練習に入ります。
今日はここまで
後編に続く。